動物は人の気持ちに寄り添う種が多いと聞きますが、馬もそう言われています。
うちの牧場ではよくシルがその担当を務めてくれるのです。
時にはシルの前で長い時間しゃがみ込み、時にはシルの顔をずっと撫で続け‥‥‥。
そうすることで心のしこりが取れ、穏やかな気持ちで帰っていくのです。
そんなときのシルは本当に大人しい。
うっとりとした顔で寄り添うのです。
でも元気すぎる人が手を出すと途端に嫌がる。
まるで別馬のような反応に、毎回驚かされます。
さて、パーソナルスペースを重んじスキンシップを得意としないビバですが、彼もまた寄り添う心を持っています。
フロンティアの牧場内にあるウマコたちの部屋に彼らが入っていると、頻繁に牧場柵の外から声をかけられます。
でもそのほとんどをウマコたちは気にしません。
名前を呼ばれるわけでもなく「ウマーウマー」と大きな声を出されるだけなので、振り向くことも近づくこともないのです。
特にビバは、自分から寄っていくことはあってもよその人が呼んでも行くことはありません。
ただ、呼ばれて行く場合もあるのです。
先日障がい者施設の方達(成人)が遊園地に遠足にこられたときのことです。
当日フロンティアにも施設から数名乗馬の予約が入っており、皆さん成人された体の大きな方達だったため、 ビバよりもドシンと構えてくれるハクちゃんにお仕事をしてもらったのです。
その間ビバはその様子をじっと観察していました。
乗馬体験は無事に終わり、皆さんは他の遊具を楽しむため一旦牧場をあとにしましたが、しばらくすると別のグループの方達が牧場の外からウマコたちを見にやってきたのです。
施設のスタッフの方が「お馬さんがいますよー」と声をかけながら彼らを誘導し、ウマコたちを柵の外から眺めてはその場を離れる。
その間ビバたちは各々好き勝手なことをするだけで柵の外の人たちのことを気にすることもありませんでした。
そんな中、グループから外れてひとり、誰もいなくなった柵に近づいてくる男性の障がい者の方がいました。
そしてビバの方を見て「可愛い、おいで」と声をかけたのです。
ビバはふと顔を上げ、それまでスタッフの方が声をかけても呼びかけに応じなかったのに、ゆっくりと彼の方へ近づき、彼をじっと見つめ始めたのです。
彼もまたビバを見つめ、まるで心で会話を楽しむかのようにしばらくの間そのままでいたのです。
やがてスタッフの人が迎えにきて彼はその場を離れましたが、ビバは彼を追いかけるかのように部屋の中を歩き始め、彼が小さくなるまでずっとずっとその背中を見送り続けていました。
つい一週間前の出来事なのに、今でもあの光景はわたしの心を温かく優しい気持ちにしてくれるのでした。